<私の視点>
◆◇ 朝鮮半島危機  ― 日本は今こそ仲介役に ◆◇
文 正仁 (ムン チョンイン) [韓国・延世大学 政治外交学科教授]  ( 2002.12.19 朝日新聞)
朝鮮半島は新たな危機にさしかかっている。北朝鮮が核開発を認めたとして、日米韓は米朝枠組み合意に基づく重油供給を中断。反発した北朝鮮は、凍結していた寧辺(ヨンピョン)核施設の稼動と建設を再開するとして、国際原子力機関(IAEA)に監視カメラと施設の封印の撤去を求めた。北朝鮮が一方的な行動に走れば、米ブッシュ政権も軍事的措置を含む行動に出る可能性もある。94年危機より深刻な事態になるかもしれない。
深刻なエネルギー・食料不足に悩んでいる北朝鮮は、韓国の反米ムードやイラク情勢から、米国も当面は軍事行動に踏み切れないとみて「瀬戸際外交」を続ける公算が大きい。破局を防ぐには、対話による解決しかない。そのためには「誠実な仲介者」が切実に求められている。
現時点で「仲介者」を務められるのは、日本だけだ。米国は「核計画の廃棄が先」として北朝鮮との対話を拒否しているし、韓国は北朝鮮が核問題を話し合う相手とみなしていない。中国・ロシアの影響力も限られている。
しかし、日本の立場は違う。9月の小泉首相の訪朝時に発表された平壌宣言は「双方は朝鮮半島の核問題の包括的な解決のため、関連するすべての国際的合意を順守することを確認した」と明記しており、日本に外交の機会をあたえている。北朝鮮が小泉首相を迎えて拉致問題などで一定の譲歩をしたのは、経済利益だけが狙いではなかった。首相を通して、米国に核・ミサイル問題で妥協の意思があるとのシグナルを送る意図が働いていたのである。
だからこそ、日本は自ら積極的に働きかけて危機打開を図るべきである。
では日本に何ができるのだろうか。事態がさらに悪化する前に、平壌へ特使を派遣することは考慮の余地があろう。特使は、北朝鮮が核開発を進めた場合、米国とその友邦国がとる制裁措置の内容をはっきりと伝えねばならない。米朝が異なる主張をしている核開発計画の現状についても真相を確認すべきである。
同時に、核施設の査察・検証・解体のプロセスや、それに伴う具体的なインセンティブ(誘引策)と制裁策について議論し、北朝鮮から協調的な態度を引き出さねばならない。
日本が外交的指導力を発揮するのは容易ではあるまい。何よりも拉致問題と日本国内の国民感情が大きくのしかかっている。だが、拉致問題はそれだけを正面からぶつけても前進がなかなか見込めない問題だ。本当に解決を目指すなら、むしろ水面下で静かに対話すべきである。
外交で国民感情は非常に重要である。ただ、平和と安全保障という一国の大局的な利益が、国民感情の虜になってはならない。核問題における能動的な仲介外交と、拉致問題における水面下の静かな外交は両立しうる。それは日本の国益と、拉致被害者の人道的要請とを同時に満たす最善の策である。
米国はどう出るだろう。小泉訪朝に米国が見せた割り切れない態度とその後の展開は、日本の独自外交が直面する限界を示した。しかし、核問題解決への仲介努力は、むしろ、日米同盟に根幹を置いた協調外交の眼目といえよう。
今こそ日本が、小泉首相の平壌訪問で示した外交的指導力と想像力を、もう一度発揮してほしい。核危機の回避を目指す仲介外交は日本外交の新しい地平を開くだけでなく、今後の北東アジアの平和と安定にも好影響を与えるだろう。
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