<私の視点>
◆◇北朝鮮援助 ― 政治と人道援助は切り離して◆◇
大島 賢三 [ 国連人道担当次官 ]  ( 2002.12.12 朝日新聞)
社団法人「日本外交協会」による北朝鮮向けのささやかな「食糧支援」が配慮を欠いたとして問題視されている。
批判は、核開発疑惑の国を助けるとはなんだ、都道府県の災害備蓄用の払い下げ品である乾パンなどを用いたことは怪しからぬ、拉致被害者と家族の皆様の気持ちを考えろ、民間であっても国交正常化の前にみだりに動くべきではないといったことであろう。
近年、北朝鮮の慢性的な食糧不足が子どもや高齢者など社会的弱者にそのしわを寄せ、大量の餓死者が生じるなどの惨状を呈し、多数の「脱北者」の背景にもなっていることは広く知られている。
その一端を今年8月初旬に私自身も直接に見聞きした。ごく最近同国を訪問した国連世界食糧計画(WFP)のジェームズ・モリス事務局長は、主要な援助国の搬出が今年になり急速に落ち込んできた結果、支援対象を年初の640万人から11月には約300万人に減らし、来年1月以降には更にそれを半減せざるを得ず、このまま推移すれば、来年にかけてまた多数の餓死者が発生する恐れがあるほか、国連機関による北朝鮮人道支援が撤退に追い込まれる懸念もあると表明した。平和や安定への跳ね返りをふくめ近隣国として無視できない問題である。
このような悲惨な人道状況にあるため、北朝鮮は国連が発出する世界人道統一アピールの対象国に含まれている。
北朝鮮との間では日本などの関係国が政治や安全保障、外交にかかわる難題を抱えている。これらの解決がなければこの国の人道問題の真の解決もないのは事実だ。ただ、人道支援に携わるものの立場から一般論として言えば、たとえある国の政府やその政策と相いれず問題や対立があったとしても、その国の罪のない国民―ましてや政府を自ら選ぶ自由も責任ももたない人々、影響を直接受けて苦しむ「声なき人々」、特に子どもや病人など弱い立場にありもっとも被害を受ける人々―を憎まず、彼ら彼女らに人間らしい善意と同情の気持ちを届けるというのが人道援助の精神であろう。ときに感情がこれを許さず、ジレンマがあるのも事実だが、政治と人道を切り離すというのが今の国際的な常識となっている。
ただし、政治と人道を切り離すといっても、実際にその善意と同情が本来届くべきところに届かないならば問題だ。北朝鮮に食糧支援をしている米国や欧州諸国もこの点は厳しく追及している。WFPなど国連機関はこの数年間、北朝鮮当局との間に辛抱強い折衝を重ねてきた結果、監視体制や監視対象地域の拡大など相当の前進をみた。なお改善の余地はあるが、国連機関経由の人道援助についていえば、ほぼ本来意図された人々、すなわち児童、孤児、妊婦、病人、高齢者などのもとに届いているといいうるところまできた。
見過ごせない窮状が近隣にあるから人々に善意を届けたいという民間の行動への批判が、感情論だけに流されず、人道援助とは本来何なのかという議論に深まることを期待したい。そして、この批判が、人道に厚い日本国民の真意を国際的に誤解させることにならないよう望みたい。 
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