◇◆ 紙面から学ぶ・・・ < NO.1>
  人類はゴミで滅びうる
       モノ増やさぬ社会考えて    養老 孟司 < 解剖学者>
2002.1.8
朝日新聞
―― どうも人類の未来が気がかりです。
「21世紀の課題は、環境問題に尽きると思います。人は都市を造りたがるが、都市文明はエネルギーを使って物に付加価値をつけることで成り立ちます。だから、資源が枯渇すれば文明は滅びる。古代の4大文明も、木材を消費し尽くした時点で消滅しました」
「こんな前例があるから、世の中は20年前、石油がもつかと心配した。ところが、20世紀末になってわかったのは、問題は石油の埋蔵量ではなく排出物、つまりゴミだということでした。いまや人類は、資源ではなくゴミで滅びる可能性が高い。こうした経済構造をいつまで続けるつもりなのか。経済界の人たちは、事の深刻さに気づいているのでしょうか。
―― 日本は再び頂点にたとうと、経済の建て直しに必死です。
「明らかに供給過多なのに、これ以上物を作ってどうします。人間は人工的なシステムによって需要以上のものを生産してしまう。日本の労働生産性は80年前の約20倍。20人でやっていたことが一人でできるようになったのだから、あとの19人は遊んでいてもいいはずなんです」
「失業率が上がることがなぜ問題なんでしょう。働かないと食えないというが、家や車が買えないだけで、食い物がないわけじゃない。働かなくていい社会のあり方を考えるべきですよ」
―― 科学や技術の力で克服できませんか
「そもそも、社会が『脳化』していることが問題じゃないですか。脳化とは、ああすればこうなると考えることです。全てが意識の下にコントロール可能だと思いたがることです。でも、肝心の人間は自分の死期さえわからない、不確定性に満ちた存在でしてね。自分が不確かである程度に不確かな自然世界が、一番暮らしやすい」
―― とはいえ、未来の情報がないと不安です。
「情報とは、一度誰かの頭を通過して言葉に置き換えられたものだから、現実との間に必ずズレがあります。事実は多面的で、そのままそっくり再現はできない。インターネットといえども情報の行き来に過ぎず、そこから知識を得る作業も単なる情報処理。人間が本当にものを学ぶのは現場からです。ことの本質は、五感を通じて入ってくるものに直面し、そこからつかみ取るしかないのです」
「現場から情報を起こすのは、ある意味で命がけです。例えば、戦争における特殊部隊の活動で、現場主義の英国は米国より死亡率が高いんです。目標物にミサイルを打ち込むことは技術的に簡単でも、その目標が攻撃に値するかどうかを見定め、無駄打ちしないためには、現場で情報を掘り起こす必要がある」
「権威ある自然科学誌の名前も、米国の『サイエンス(科学)』に対して英国は『ネイチャー(自然)』。現場から学ぶ姿勢がにじんでいます」
―― ところで日本は?
「いまだに国土の7割が森林で、歴史上の大地震の5%、大噴火の20%が起きる国です。自然は思うようにならないと肌にしみている。だから、自然に手を入れて折り合いをつけてきた。里山的な生活です。こうした伝統的な生き方を取り戻さないといけない。自分はどんな生き方をしたいのか。脳で考えるのではなく、体で感じて謙虚に生きる方法を取り戻さないと、本当に手遅れになりますよ」
 
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