◇◆ 紙面から学ぶ・・・   < NO.3>
     「補助金」が林業を崩壊させた
            --- だれが森林を救うのか ---
2002.6.15
朝日新聞
 環境問題への関心が高まるにつれ、森林の役割の大きさが見直されるようになった。市民の手で森林を生き返らせようという動きは出てきたが、本来、持続可能な森林経営を担うべき林業の衰退には歯止めがかかっていない。 コストの安い外材に押され、ビジネスとして成立しえないといわれる日本の林業が、復活することはないのだろうか。 日本の森林面積は、国土の約7割を占める。10%台の中国や英国と比べれば水源涵養や土砂流出防止、二酸化炭素の吸収といった森林の機能は安泰のように思える。
 のんき過ぎる見方だ。
こう一喝するのは、和歌山県田辺市の生物学者後藤伸さんだ。元高校教諭。
「カメムシ先生」と呼ばれた。 発見したカメムシの新種は数知れないそんな後藤さんは、日本中の山々で木を枯らすことをたくらんでいる。枯らせるのにはちゃんと理由がある。 ブナ、ミズナラ などの照葉樹の原生林なら、人間の片足の下に数万匹の土中生物がいるという。ところが、日本の大半の森林では数千匹に過ぎない。「スギとヒノキばかり植えたから、生物の多様性が著しく損なわれた。手入れされずに放置された人工林なら、ゼロに近い場所もある」

 後藤さんによると、こんな現状は戦後の植林政策が招いた。目先の利益優先で、奨励種として補助金がついた針葉樹ばかりが植えられたからだ。 人工林は全森林面積の40%を超える。半分近くがスギで、その面積は水田を上回る。林業の不振で、間伐されずに放置される人工林が増え、事態は悪くなるばかりだ。 弊害は花粉症だけではない。針葉樹の根は水平に広がるため、山全体が「一枚の根の板」のような状態になる。「堤防をコンクリートで固めても、大雨のたびに土砂災害が起きるのは、『一枚の板』になった山が簡単に崩れて土石流になるからだ」
 こんな危機感から「木を枯らす運動」を始めた。
97年に「いちいがしの会」をつくった。後藤さんが会長で会員は約300人。昨年からスギやヒノキの「巻き枯らし」を活動の柱に加えた。
幹の表皮を適当な幅でぐるりとはぎ取り、 地中の養分を吸収できないようにする。 樹木は2年ほどで先端から朽ちていく。地面に日が差し込むようになり地表からは様々な植物の芽が出てきて森林が生き返る。 伐採に比べて危険は少なく、特別な技術もいらない。後藤さんは「市民参加型の国民運動に」 と意気込んでいる。
 欧州とどう違う?
険しい山が多く、伐採や搬出にコストがかかるうえ、人件費が増大で、安い外材に太刀打ちできなくなった。 これが一般論として語られる日本林業崩壊の理由だ。
経済同友会環境委員会で林業の報告書を作成中の梶山恵司・富士通総研研究員は、この理由を疑うことから始めた。当初は木質バイオマス研究を手がけたが供給源を改革しないとどうにもならないことに気づき、「基本」にさかのぼった。
比較対象に、日本と同じ山がちな地形ながら、木材自給率106%のオーストリア(日本20%)を選んだ。小規模な山林所有者が多い点も似ていた。だが調べてみると、林業と林産業が明確に区別されている点が大きく違った。
林業を担う森林所有者は、長期森林計画 の策定が義務づけられるなど厳しい規制で縛られる。一方の、製材や木材加工の林産業は市場原理に委ねられ、この20年で製材所は数社に集約されていた。

 日本に目を向けると、住宅メーカーが国産材を利用しない理由は実はコストだけではない。所有者の都合で伐採されることが多い日本の林業では、一定の品質の木材を安定的に供給できないのだ。「林野庁は林業の集約化が必要だと言いながら、造林から素材生産まで担う森林組合を 補助金づけにして、逆に集約化の動機を奪っている。 補助金が日本の林業を崩壊させたと言っても過言ではない」。
 そして、梶山さんは言う。
「一部の輸出産業を除けば、日本は先進国と言えるかどうか。貿易黒字を補助金に回すことで、近代化の遅れをごまかしてきた分野は、何も林業だけではありません」 危機こそ最大のチャンス。そう思わなければ浮かばれない。
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