【 養老猛司3作品 】

 バカの壁 <新潮新書>
 「いまや人類は、資源ではなくゴミで滅びる可能性が高い」という大胆な発言を聞き、どんな人なのか興味を抱いていた。たまたま本屋さんの店頭でこの本を見かけ購入した。03年の春のことだ。それから、あれよあれよという間に300万部突破。今さら取り上げるのも憚れるほどよく売れたようだ。
  さてその内容ですが、平易な言葉で書かれているが、理解するには“壁”が高い。結局繰り返し3回も読んだのだが、理解できたとはとても言い難い。特に“脳”の構造の説明はチンプンカンプン!
  そんななかで「知っている」と「わかっている」は決定的に違う、という話はなんとなく合点がいった。アメリカによるイラクへの昼夜を問わない空爆を私はTVニュースで「知っている」。だがその空爆の下でイラクの人々が感じているであろう“恐怖心”や“怒り”は、きっと私には「わからない」・・・
 もうひとつ印象に残ったのは、「個性」は各々の身体にすでに存在する。教育は、意味のない「個性」を強調するよりは「他人の気持ちが解る教育」をすべきだ、という提案。このことは人の個性とは何なのだろうか、と考えさせられるとともに、一理あるのではと感じた。 閉塞感に満ちた現況を打破するには、今までの“常識”を、養老ロジックを駆使して疑ってみるのも妙案かもしれない。

 いちばん大事なこと  ― 養老教授の環境論 <集英社新書>
 この3冊の中では、一番興味深く、しかも読み易かった。独自の環境論で発想の転換の必要性を促し、問題の解決には「フツーの常識」からの逸脱が不可避と語る。このまま環境破壊が進めば、人類は百年後まで生き延びれないのでは〜という危機意識の元に、その打開策を論じていく。
 まず「虫も自然、人体も自然」と独自の環境論を展開、さらに「暮らしの中の環境問題」「歴史にみる環境問題」といろんな角度から環境問題を考察し、「生物の多様性」「環境教育」にも言及している。
 最後に全ての人が1年のうち3ヶ月を田舎で暮らす“現代版”参勤交代を提案する。
 ・・・だから「生き方の問題」だといったのである。「都会で忙しく働いているあなたと、ファーブルと、どちらが人間の生活を豊かにしたと思いますか」それが私が尋ねたいことなのです。・・・
この一文に著者の現状打破への期待感が凝縮されているのでは、と思う。

 まともな人 <中公新書>
 3冊目は時評集。この本は「中央公論」に連載中の「鎌倉傘張り日記」の、2001年1月〜2003年9月分を纏めたもの。「報道は間接体験で、私は要するに野次馬である」と言い放ちつつ、養老ロジックで“世の中”を解剖する。 「米9.11同時多発テロ」「北朝鮮による拉致」「首相の靖国参拝」「教科書検定」など・・・ その社会背景や解決策を独自の論理で探る。単なる継続性からは推し量れない発想の深さと広さに驚かされる。
 こんな一文が目に止まった。
 「四国に三本も橋を架けやがって。それがいま話題になっている。しかしその橋を作るために汗を流して働いた人たちがいるはずである。その人たちは当時も、いまも、はたしてどう思っているのだろうか。その労働の意味とはなんだったのか。・・・
 人生の意味を問うというのは、若者達の特権というわけではない。青臭い疑問というわけでもない。私はそう思う。それは高齢になってもひたすら問わなければならない、大切な問題であろう。それでなければ、何十年も辛抱して生きてきた甲斐がない。それに正解があるなどと、私は思っていない。しかし年寄りが若者に答えるとしたら、そういうことしかないではないか。・・・」

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