【 司馬遼太郎の世界 】

 空海の風景(上・下) <中公文庫>
 私はNHKの「空海の風景」という番組で、この本を知り読んでみたいと思った。あいにく近くの書店に在庫はなく取り寄せてもらった。雑誌に連載されていたものが単行本として発行されたのが1978年、20余年を経て私はこの本の存在を知った。 
 空海・・・弘法様とかお大師さんと言ったほうが馴染み深いかもしれない。彼については、本人あるいは彼の弟子によって書かれた数多くの書物が残されているそうだが、その文献から、空海その人の全体像を追っている。行動だけでなくその時々の「思い」にまで踏み込んでいる。それだけに書かれていることを理解するのは至難の業。仏教・密教へのアプローチもあり、理解の範疇をはるかに逸脱している。 
 辛うじて解ったことは空海という人はとんでもない人だった、ということだけ。その凄さをあげつらってもしかたがないが「平安の巨人」とか、「人類普遍の天才」とかいわれる所以がよくわかる。
 渡唐したときには流暢に中国語を使い、密教を体得するのに必要といわれるサンスクリット語も解したという。さらに多くの書にも精通していたというがそれさえ彼の一面に過ぎない。
おもしろかったのは・・・唐に渡る際の諸々の状況、長安での暮らしと密教との出会い、高雄山寺・東大寺・東寺・乙訓寺など現存する日本の寺・仏教への影響、最澄との確執、高野山との出会い・・・・など。
 名前しか知らない過去の人物“空海”に、少しだけ近づけた気がする。幻想かもしれないが。高野山や京都のお寺をこれから訪ねる機会があったら、空海の影をそこに探してみたいと思う。
 
 最後に「空海の風景」というちょっと風変わりな書名へのこだわりを著者はこう書いている。
「 しかし、何分にも遠い過去の人であり、あたりまえのことだが、私は彼を見たことがない。その人物を見たこともないはるかな後世の人間が、あたかも見たようにして書くなどはできそうにもないし、結局は、空海が生存した時代の事情、
その身辺、その思想などといったものに外光を当ててその起伏を浮かびあがらせ、筆者自身のための風景にしてゆくにつれて あるいは空海という実体に偶会できはしないかと期待した。・・・」

 その他の作品
 微光のなかの宇宙 --私の美術観 独自の美術史観を展開〜密教美術、空海についても語る
 日本語と日本人 <対談集> 井上ひさし、大野晋・・らと。日本語の起源は日本人の起源
 十六の話 「なによりも国語」で、言語の果たす役割の大きさを説く
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 風塵抄二 「地面は公有という倫理観」を失えば日本に明日はない・・・
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 ロシアについて 北方の原型 司馬史観が結ぶロシア像とは・・・
 長安から北京へ 古代文明の「光源」が革命後自らの身体の生体解剖を始動
 人間の集団について・・ベトナムから考える 半生で一番楽しい時間を過ごしたという・・・ベトナム訪問記
 『街道をゆく』シリーズ
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  5 モンゴル紀行 ハバロフスク、イルクーツクから憧れのウランバートルへ・・
  6 沖縄・先島への道 沖縄には「沖縄問題」というもう一つの世界がある。
 13 壱岐・対馬の道  昔、対馬・佐須奈の人々は映画見物も病院も釜山だった。
 15 北海道の諸道 函館、札幌の歴史に思いを馳せる
 19 中国・江南のみち 江南(蘇州、抗州周辺)と日本との深いつながりとは・・・
 24 近江散歩奈良散歩 奈良を旅するときは必ずこの本を持っていきたい
 28 耽羅(たんら)紀行 韓国・済州島は古代、耽羅(たんら)という独立国だった。
 41 北のまほろば 先史時代の津軽・南部・下北は“北のまほろば”だった。

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