【 生きる・老い 】

 安楽病棟 帚木蓬生 ( Hahakigi housei ):著 <新潮文庫>
 ある病院に併設された痴呆病棟を舞台にそこに入院している老人をめぐる物語。ドキュメントかと思うほど痴呆とはどういうことかが克明に描写され、思わず考えさせられる。 特別養護老人ホームで働く友人から聞いた話を思い出させる場面も多い。老いて痴呆になってまで生きるということはどういうことか、重い課題だと痛感した。
 「初老とはいくつからか」という問いに対して「40歳」という答えが出される場面がある。40を過ぎたら、「 敬老の日というのは、自分たちとは関係のない祝日であり、単に年寄りを敬い祝う日だと思っている方があるとすれば、大間違いです。 知らず知らず老いの坂を下っている自分を確認する日だと考えるべきです」ということらしい。

 この生命を凛と生きる 大石邦子:著 <講談社文庫>
  本は新聞やウェブサイトで内容をチェックして購入することが多いのですが、この本は本屋さんの店頭で、この題名に惹かれて買った。
 右手しか動かすことのできない作者は、“ボケ”の始まった母親を抱え、食事の支度をし、その母を介護し、リハビリテーションをし、という日々を送る。そしてその結果、その母親は再び歩けるようになった。その毎日の暮らしぶりが描かれている。
 とても想像のつかない厳しい状況の下で、その状況に甘んじることなく、本当に柔らかな視線と、人間的な価値観を貫いて事にあたっている。 人間の尊厳を守ることの重要さを ひしひしを感じさせられた。自分だけでなく母にも最後まで 「凛」と生きてほしいという思いがそうさせたのだと思う。 改めて私も最後まで「凛と生きたい」と思う。

 四国遍路 辰濃 和男:著 <岩波新書>
 四国八十八ヶ所を金剛杖を手に歩いた70日余の道中記。人は己の人生に向き合うために、また何かをつかむために遍路に出ると聞く。だれもが己の体力、気力を信じ、真摯に自分の来し方に思いをめぐらせる遍路ができるのだろうか。 遍路の在り方にすでにその人の生き様が出てしまう。こんな穏やかな気持ちで遍路をまっとうできるとは羨ましい。

 黄落 佐江 衆一:著 <新潮文庫>
 老いの悲しさを痛感させられる。しかし老いの時期は若かった時代の延長線上にあり、 その一つの終着駅だ。納得した生き方をしないと生き甲斐のある老後はおくれまい。今の自分の生き方に思いを巡らす。

 妻と私 江藤 淳:著 <青春出版社>
 「心身の不自由は進み、病苦は堪え難し。去る六月十日、脳梗塞の発作に遭いし以来の江藤淳は形骸に過ぎず。自ら処決して形骸を断ずる所以なり。乞う、諸君よ、これを諒とせられよ」―― このような遺書を残して、この有名な作家は平成11年7月に自ら死を選んだ。前年の11月に亡くなった奥様の後を追ったとも言われるが。
 この書は死を宣告された奥様との最後の闘病(?)の日々を綴った手記である。それだけに生々しい。連れ合いを亡くすことの辛さと空虚感に打ちのめされながら、奥様を必死で支える作者の心模様が痛々しい。力尽きたという気がする。

 アンダーグラウンド 村上 春樹:著 講談社文庫
 これは地下鉄サリン事件被害者へのインタビューをまとめた一冊のドキュメント。脚色はまったくされてない。それだけに突然、何の理由もなく、日常生活を遮断された人たちの苦悩や無念さが伝わってくる。 著名な作家でありながら、この本をまとめ上げることに尽力した著者は凄い人だ。
 次から次へとセンセーショナルな事件が起き、この事件も忘れ去られようとしている。でも被害に遭った人たちは、この重い現実と立ち向かいながら生きている。いつまで経ってもこの事件から逃れることはできない。
 犯罪被害者に手を差しのべる手だてが、この国にはないという。悲しいことだ。

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