【 アジア人として 】

 チベットわが祖国  ― My land and My people ダライ・ラマ/訳・木村肥佐生 <新潮文庫>
 チベットという国に対しては、仏教の源流に位置する国として、その文化・暮らしの在り様に漠然とした興味を抱いていた。
 第十四世ダライ・ラマ。その人が語るチベットの歴史にふれ、この国が歩んできた厳しい現実に胸が痛む。国際社会はチベットになんと無関心、かつ冷酷であったことか〜同時代を生きてきた者として忸怩たる思いがする。
 大国も小国も、その立場や発言権に差はないはずなのに、軍事力や経済力が勝る国の“正義”が優先する。なんとも理不尽な現実を知らされた。チベットの人々が心穏やかに、信頼できる指導者のもとで、平和に暮らせる日が一日も早く来ることを願わずにはいられない。

 アジア情勢を読む地図 浅井信雄:著 <新潮文庫>
 この本は5部構成。第1部 行動様式を歴史に探る、第2部 安全保障の矛と盾、第3部 陽はまた昇るかアジア経済、第4部 政治力と外交センス、第5部 多様な文化・多様な社会。
 グローバル化の進む現代社会にあって、社会、経済、文化などは一国の事情では何も語れない、と実感した。世界を見ているようで見てないな、とも感じた。特に『正義の仮面の下の国益――アフガニスタンと米国』の章では、“目から鱗”の思いがした。日本は国益のみにとらわれない外交を進められる数少ない国の一つだったのに・・・、という思いだ。

 中国全省を読む地図
     <22省・4直轄市・5自治区・香港・マカオ・台湾>
莫邦富(Mo Bangfu):著 <新潮文庫>
 著者は「中国へ旅行・出張するときはこの1冊さえ手にもっていればまず安心、という本を作るのが私の目的である」と書いている。
 中国を構成する基本の行政単位である省・市・自治区・特別行政区ごとに、産業の現状、歴史的背景、ゆかりの人物、気候・地理的条件、観光地などいろいろな側面から迫っている。資料もかなり新しい。
 それにしてもすごい国だ。中国本土だけで、数十の少数民族を含む13億人の人口を抱え、仏教・チベット仏教(ラマ教)・キリスト教・イスラム教などの宗教が存在。万里の長城・紫禁城・敦煌・黄山など数多くの文化・自然の世界遺産をもつ。日々刻々と変わっていく巨大国家中国、この国の動向に注目せざるを得ない。上海、北京など、幾つかの街を訪れたが、とりわけ西安の街が印象に残る。

 アジアの弟子 下川裕冶 ( Shimokawa Yuji ) :著 幻冬舎文庫
 2年間の新聞社勤務の後、27歳にしてアジアにのめりこんでいく。貧乏旅行ライターの草分けのような人で私も名前は知っていた。しかしこの作品は旅行記ではない。
 安保、学生運動、高度経済成長・・・の70年代に生きた青年の内面葛藤を描いた告白の書。世代が近いせいもあって共感できる場面も多い。しかも私もアジアが好きだ。 突然の激しいスコールに立ちつくしたホーチミンの街角で、ランニングシャツで走り去る人を眺め、なんとも言えぬ懐かしさをおぼえた。この町なら等身大に生きていけるかな〜とも感じた。
 「日本という国はとりたてて引力が強い国のようだ。この国に暮らしていると、いつのまにか体が重くなり、足どりの軽さを失ってしまうのである。社会にはもつれた人間関係という罠がそこかしこに仕掛けられていて、僕などは実に頻繁にひっかかってしまうのである。日本に暮らす人々は、生活とか人生といった言葉を巧みに使って、僕の足をしきりに引っぱろうとするのである。旅のなかで軽くなってきていた僕の人生は、またしても日本でどっさりと負荷をかけられるのである」 ・・・共感を抱くと共に、心惹かれる一文である。

 ハングルへの旅 茨木のり子:著 朝日新聞社
 著者は私の好きな詩人の一人。私は韓国語の音の響きはあまり好きではない。とはいえ、ニュースの冒頭に少しだけ流される北朝鮮のヒステリック(?)なアナウンサーの朝鮮語しか聞いてないのも事実だが。
 彼女はこの響きを「ひいきするわけではないが綺麗な響きだ」と書いている。韓国への幾度かの旅や、韓国の詩人との交流、日本語との共通性などを通して、韓国語の魅力に取り付かれていく過程がハングルの説明とともに述べられいる。韓国、韓国語に関心を持っている人には必読書ではないだろうか。ちなみに著者はハングルへの「誘惑の書」として書きたかったという。この本の初版は1989年3月である。サッカーがらみの即席「日韓親善」とは隔世の感がある。

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